導入
「徒長してひょろ長くなってしまった…」 「成長点が上に伸びすぎて、株のバランスが悪くなった…」
そんなアガベを、諦めて棚の奥に追いやっていませんか? その株はまだ終わっていません。「胴切り(どうぎり)」という外科手術を行えば、美しい姿を取り戻し、さらに大量の子株を得て復活させることができます。
本記事では、徒長株の救済措置として、また良型株を増やすためのテクニックとして、失敗しない胴切りの手順と術後の管理を解説します。
胴切りとは?メリットとリスク
胴切りとは、成長点(株の中心)を水平に切断し、上(天)と下(地)に分ける手法です。
目的とメリット
- 徒長のリセット: 伸びてしまった部分を切り離すことで、成長点を低い位置に作り直せます。
- 高さ調整: 長年育てて茎が立ち上がりすぎた株を、低い位置で切り戻してバランスを整えます。
- 増殖(爆増): 成長点を失った「地(下側)」は、子孫を残すために生存本能が働き、脇から大量の子株を吹きます。
リスク
- 失敗すれば枯れる: 特に切り口から雑菌が入ると、腐って全滅するリスクがあります(後述する殺菌が最重要)。
- 勇気が必要: 愛着ある株を真っ二つにするには、かなりの覚悟がいります。
失敗しない胴切りの手順
カッターやナイフを使う方法もありますが、葉の隙間に入り込み、スパッと綺麗に切れる「テグス(釣り糸)」を使う方法が最も安全でおすすめです。
必要な道具
- テグス: 太めの釣り糸(12号〜20号推奨)。細すぎると切断中に糸が切れて危険です。
- 殺菌剤: ダコニール1000(原液)など。
- 消毒用エタノール: 道具の手指消毒用。
- 筆: 殺菌剤を塗る用。
Step 1: 準備(水抜き)
胴切りを行う数日前から水やりを控え、株の水分を抜いておきます。水分が多いと、切断後に傷口が乾きにくく、腐るリスクが高まるからです。
Step 2: カット位置の決定と糸掛け
- 徒長が始まっている部分より下、あるいは増やしたい葉の枚数を残して、葉の隙間にテグスを食い込ませます。
- テグスを株に一周させ、手前でクロスさせます。
Step 3: 切断(この瞬間が一番怖い)
- 株をしっかり押さえます(手袋推奨)。
- クロスさせたテグスを、躊躇せず一気に左右に引き絞ります。
- 「スパッ」という音と共に、中心核が切断されます。
Step 4: 殺菌処理(最重要)
- 切断面(天と地の両方)に、筆で殺菌剤(ダコニール原液など)をたっぷりと塗りたくります。
- ここを省略すると、高確率で切り口からカビが生えたり腐ったりします。
切断後の管理:「天」と「地」の運命
真っ二つになったアガベは、それぞれ別の運命を辿ります。
天(上側):発根管理へ
成長点が残っている上側は、乾燥させてから発根管理を行うことで、1つの株として復活します。 徒長部分がなくなれば、背の低いコンパクトな良型株として再スタートできます。
地(下側):子株ファクトリーへ
成長点を失った下側は、残った葉で光合成を続けながら、新しい成長点を作ろうとします。 数週間〜数ヶ月後、葉の付け根や成長点の残骸付近から、ワラワラと新しい子株が出てきます。
【子株の収穫】 子株がある程度の大きさ(親指サイズ以上)になったら、手やカッターで親株から外します。 この時、子株には根が無い状態(未発根)であることがほとんどです。 採取した子株も、同様に発根管理を行って一人前の株に育て上げます。
【上級編】良型株にあえてメスを入れる理由
胴切りは、徒長株の救済措置だけではありません。 非常に形の良い「親株」の遺伝子を確実に残したい場合、あえて健康な株を胴切りし、「クローン(カキ仔)」を大量生産するテクニックとしても使われます。
- ボール型を維持したいが、高さが出てしまった時。
- 保険株を作っておきたい時。
攻めの姿勢でハサミを入れることも、アガベ育成の醍醐味の一つです。
まとめ
徒長してしまったアガベを見るたびに落ち込む必要はありません。 それは「株を増やすチャンス」が来たということです。
- テグスでスパッと切る。
- ダコニールで確実に殺菌する。
- 天を発根させ、地から子株を採る。
勇気ある切断が、あなたのアガベ棚をさらに賑やかにしてくれるはずです。
































