導入
アガベ育成で最も恐ろしいこと。それは株が枯れることよりも、「虫に食われること」かもしれません。 なぜなら、アガベの硬い葉についた虫の被害痕(傷跡)は、数年間消えることがなく、その観賞価値を著しく損なうからです。
「うちの株は室内だから大丈夫」 そう思っている時が一番危険です。彼らは服について、あるいは新しく買った株について、あなたの部屋に侵入してきます。
本記事では、アガベの二大天敵である「アザミウマ」と「ハダニ(アガベマイト)」の被害痕の見分け方と、薬剤耐性をつけさせずに殲滅するための「薬剤ローテーション」について解説します。
アガベの二大天敵と被害痕(サイン)
敵を知らなければ戦えません。まずは彼らが残す「サイン」を見逃さないようにしましょう。
1. アザミウマ(スリップス)
1mm以下の非常に小さな細長い虫です。成長点付近の柔らかい組織の隙間に入り込み、汁を吸います。
- 被害痕: 新しい葉が開いた時に、「白いカサブタ状の傷」や、無数の「ひっかき傷」が現れます。
- 恐怖: 成長点がやられるため、その後展開する葉すべてに傷がつき続けます。一番美しい中心部分が汚くなるため、精神的ダメージが大きいです。
2. ハダニ・アガベマイト
乾燥した環境を好む微小なダニです。葉の裏や付け根に潜みます。
- 通常のハダニ: 葉の色が「カスリ状(白く点々と色が抜ける)」になります。ひどいと葉裏に蜘蛛の巣のような糸を張ります。
- アガベマイト(フシダニ): 目に見えないほど小さなダニで、成長点付近に潜みます。被害を受けると葉が奇形になったり、茶色くケロイド状になったりします。
- 恐怖: 繁殖力が凄まじく、放置すると株全体の生気を吸い尽くして枯死させます。
【予防の鉄則】オルトランDXでバリアを張る
虫対策の基本は「出る前に撒く」ことです。
オルトランDX粒剤
【月に一度のバラ撒き習慣】 アガベ育成の必需品です。土の上にパラパラと撒いて水やりをすると、成分が根から吸収され、株全体が殺虫効果を持つようになります(浸透移行性)。 アザミウマやカイガラムシに対して絶大な予防効果がありますが、ハダニには効かないので注意が必要です。
【駆除の鉄則】薬剤ローテーションで耐性を防ぐ
もし虫(または被害痕)を見つけてしまったら、即座に駆除が必要です。 ここで重要なのが「薬剤ローテーション」です。虫は同じ薬を使い続けると、すぐに耐性を持って死ななくなります。 作用機序の違う以下の3つを準備し、順番に使い回すのがプロのやり方です。
1. ベニカXファインスプレー (ネオニコチノイド系)
【初期対応の便利屋】 希釈不要で、見つけたらすぐにシュッとできるスプレー剤です。 アザミウマにも効きますが、「ブラックアンドブルー(BB)」などの一部品種では、薬害が出て葉が汚くなるという報告があるため、BBへの使用は避けた方が無難です。
2. アファーム乳剤 (マクロライド系)
【対アザミウマの最終兵器】 アガベ愛好家の間で「最強」との呼び声高い薬剤です。 アザミウマに対して即効性が高く、ハダニにもある程度の効果があります。ここぞという時の切り札です。
3. コロマイト乳剤 (ミルベメクチン系)
【対ハダニ・アガベマイト特効薬】 ハダニ駆除に特化した殺ダニ剤です。 卵から成虫まで全てのステージに効くため、一網打尽にできます。アガベマイト対策としても有効です。ただし耐性がつきやすいため、年1〜2回の使用に留めるのがコツです。
必須アイテム:展着剤と噴霧器
乳剤(原液)は水で薄めて使いますが、アガベの葉は水を弾くため、そのままでは薬が定着しません。必ず展着剤(ダイン)を数滴混ぜて、葉に薬を張り付かせてください。
害虫予防カレンダー
- 春(3月〜5月): 虫が目覚める季節。植え替え時にオルトランを混ぜ込む。
- 梅雨〜夏(6月〜9月): ダニの最盛期。乾燥させないようこまめに葉水をする。怪しいと思ったらコロマイト散布。
- 秋(10月〜11月): 最後の追い込み。アザミウマの被害が出やすいので、アファームで叩く。
- 冬(12月〜2月): 室内は暖かいので油断禁物。観察を続ける。
⚠️ 農薬使用上の注意
本記事で紹介した「アファーム」や「コロマイト」などは農薬です。家庭園芸用としてAmazon等で購入可能ですが、使用にあたっては以下の点を必ず守ってください。
- 説明書を熟読する: 希釈倍率や使用回数を必ず守ってください。
- 防護対策: 散布時はマスク、手袋、長袖を着用し、薬剤を吸い込んだり肌に付着させたりしないようにしてください。
- 換気: 室内での散布は避け、ベランダや屋外で行ってください。
まとめ
美しいアガベを守れるのは、育成者であるあなただけです。
- オルトランでバリアを張る。
- 被害を見つけたらアファームやコロマイトで即座に叩く。
- ローテーションで耐性をつけさせない。
この鉄則を守り、害虫から大切な株を守り抜きましょう。
































